りぼんの読書ノート

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黄泉坂案内人(仁木英之)

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この世とあの世の間にあるものは黄泉比良坂だけでなく、坂の途中には村や宿屋があり、魂を運ぶタクシーも運行されているようです。その「入日村」は、100年以上前に水害に襲われた際に次元の裂け目に落ちてしまい、村まるごと黄泉坂に移動していたのです。

命あるまま「入日村」に迷い込んでしまったタクシードライバーの磐田速人は、妖怪ナトリに名前を奪われて現生復帰が叶わなくなり、黄泉坂タクシーの運転手にされてしまいます。山の玉置神から気に入られ、魂に一時的な実態を与える「かぐつち」をふるう少女・彩葉とともに、死者の魂の未練を払う役割を担うことになるのですが・・。

人の未練はさまざまで、幼い娘を気遣う母親や、戦死した旧友への罪悪感をぬぐえない老人や、妻の期待に応えられなかった工場主などが登場するのですが、本書は無限に続きそうなエピソードの羅列では終わりません。やがて「入日村」の存在意義が問われる事態が起こり、彩葉の生命力も限界に達してしまうのですが・・。

「あわい」にあるために神や妖たちも普通に登場する「入日村」は、梨木香歩さんの家守綺譚の世界のようですが、やはり不自然な存在なのでしょう。緊張しまくりの少女姿で登場するドジでチャーミングな玉置神は、ツボに嵌りました。

2017/12