りぼんの読書ノート

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ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(スティーグ・ラーソン)

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スウェーデン発の「社会派ミステリ」というと、10年に渡ってスウェーデン社会の変貌を追う中で、当時すでに萌芽しつつあったグローバリズムの暗黒面に警鐘を鳴らしていたペール・ヴァールーとマイ・シューヴァルの『マルティン・ベック・シリーズ』を思い浮かべる人も多いのではないかと思います。本書は、その古典的シリーズの正統な後継者であるだけでなく、やはり同国の古典であるリンドグレーンの「カッレ君」と「ピッピ」の遺伝子も継いでいると聞いてしまったら、読まないわけにはいきません。

期待は裏切られませんでした。正義感が強く優れた推理力を持ち、女性に対して節操がないものの基本的にはフェミニストで誰からも好かれる壮年の雑誌編集長のミカエルと、人嫌いで社会的不適応者ながら天才的なハッカーで、フリーの調査員を務める20代の女性リスベットのコンビは魅力十分です。(でも、カッレ君とピッピの少年少女時代のことは思い出さないほうが良さそう^^;)

大物実業家の違法行為を暴露した記事が名誉毀損で有罪となって、雑誌「ミレニアム」から一時的に離れたミカエルに対して、往年の名門企業ヘンリックの元会長から不思議な依頼が舞い込みます。自分の後継とも考えていた兄の孫娘が、16歳の時に失踪したという、40年前に起きた事件を調査して欲しいと言うのです。依頼前にミカエルの身元調査にあたったのがリスベットだったのですが、一見奇妙なコンビは最強の威力を発揮し、現在にも続く、一族の忌まわしい事実を暴いていくことになるのでした。

邦題の「ドラゴン・タトゥーの女」とは、25歳ながら発育不良気味で10代にしか見えず、細い身体中に刺青をしているリスベットのことですが、原題は「女を憎む男たち」だそうです。憎悪が虐待を生むのか・・。

「女性に対する虐待」が、スウェーデンの社会問題ともなっているほどにシリアスというのは意外でしたが、どこの国でも共通の問題なのでしょう。しかし、第二次世界大戦の時に中立を保ったスウェーデンにおいても親ナチ勢力が伸張し、人種差別/性差別が起きていた歴史的な事実と関連した文脈で語られると、問題の根の深さを感じてしまいます。

2009/8