りぼんの読書ノート

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死者の国(ジャン=クリストフ・グランジェ)

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コウノトリの道』、『クリムゾン・リバー』、『狼の帝国』で読者の度肝を抜いてくれた著者の久しぶりの翻訳は、なんと700ページを超えるポケミス史上最大の厚さ。一部では「赤レンガ」などと言われているようです。 

 

主人公は、パリ警視庁犯罪捜査部の警視で第1課長を務めるコルソ。激しい気性の持ち主で一時に線を超えることもあるものの、捜査官としては優秀であり現在の地位に至っています。彼の性格は、孤児として社会の底辺で苛まれていた少年時代に、現在の上司であるカトリーヌに救い出されて警察官への道を開いてもらったという過去に由来するのでしょうか。 

 

そんなコルソが、2人のストリッパーがゴヤの不気味な絵画のような姿で殺害された、猟奇的な事件の捜査に乗り出します。考える限りの手掛かりに当たったものの、手掛かりはゼロ。しかし唐突に情報が集まり出すのです。そして全ての情報が、犯人はソビエスキという囚人あがりの画家であると指し示していました。しかし彼の弁護に乗り出した美貌のカトリーヌは、意外な事実を突きつけてくるのでした。 

 

本書の魅力が犯人探しと言うミステリ部分にあることは、もちろんです。しかし最大の魅力は刑事、被害者、容疑者、弁護士を結びつける一本の線であり、それこそが真犯人の犯罪動機だったのです。そして本書を読み終わってようやく、『死者の国』というタイトルの意味にたどり着くことができるのです。 

 

フランス高級官僚の妻が「あなたは半年前までトルコ人だった」と告げられる『狼の帝国』や、渡り鳥の減少が国際犯罪に結びついていく『コウノトリの道』もショッキングでしたが、著者は一層の進化を遂げていますね。ただし主人公のイメージがどうしても、『クリムゾン・リバー』で好演したジャン・レノになってしまいます。冒頭で「久しぶり」と言いましたが、2018年に『通過者』という作品が出ていました。こちらも読んでみましょう。 

 

2020/5