漂流して欧米船に救助された後に帰国が認められ、幕末に活躍した日本人といえばジョン・万次郎が有名ですが、本書の主人公はジョセフ・ヒコこと浜田彦蔵です。
アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策によって帰国を阻まれてやむなく渡米。多くの米国人の知己を得た彦蔵はミッション・スクールで教育を受け、ピアースとブキャナンという2代に渡る大統領との会見も経験。後にはリンカーンとの会見も果たしているといいますから、この時代にこんな日本人はほかにいませんね。
やがて日米修好通商条約が結ばれて多くの漂流民が帰国できるようになりましたが、カトリックの洗礼を受けた彦蔵の帰国は許されなかったため、アメリカに帰化してアメリカ国民として9年ぶりに帰国。アメリカ領事館の通訳となります。
その後、攘夷の嵐が吹き荒れる中で一旦アメリカに戻るなどの紆余曲折もありながら、外国人居留地で商売を始め、岸田吟香とともに英字新聞を翻訳した新聞を発刊したり、大阪造幣局の創設に尽力するなどの活躍をするのですが、最後まで国籍と民族という、当時の日本では理解されなかった違いに苦しめられたようです。
本書は彦蔵が主人公ではあるものの、「漂流民のことを書く」とした著者の言葉通り、数十人もの幕末漂流民が登場します。ある者は異国に倒れ、ある者は帰国を果たして幕末日本で故郷の藩に重用されるなど各人の運命はさまざまですが、彼らに共通しているのは日本へのやむことなき思いです。こんなに多くの漂流難民がいたんですね。
興味深かったのは、言葉も通じない異民族の漂流民を救出して世話をするという、当時のアメリカ人の博愛心です。もっとも一部では、漂流民を送り届けることを日本を開国に導く外交カードとして使おうとの意図を抱いた者もいたようですが・・。
2012/1