りぼんの読書ノート

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現代生活独習ノート(津村記久子)

年齢も職業も異なる8人の女性の一人称で綴られた、独立した8編からなる短編集。作品間の共通点はありませんが、皆が著者の分身であるように感じられます。人はひとりでも生きていけますが、誰かと心が通じ合うことは生きる熱量を少し上げてくれるようです。

 

「レコーダー定置網漁」

偶然録画していた興味のない番組を見始めたひとり暮らしの女性は、とりとめのないバラエティ番組にレギュラー出演している女性たちに共感を抱き始めます。情報過多のSNSをチェックする仕事に疲れ果てていた彼女の心は、再び動き始めたのかもしれません。

 

「台所の停戦」

祖母と娘と同居している女性は、女3人で共用している冷蔵庫内の陣地争いに疲れ果てています。しかし彼女は、母から受け継いだ悪い面を娘には引き継がないようにしようと思ったことで、母のことも許せそうです。

 

「現代生活手帖」

ロバによる配送サービス、毎朝一杯の紅茶をサーブしてくれる執事、知らないうちに不要なものを捨ててくれる捨て物ロボット、みかんジュースが出る水道、仕事を急がせる脅迫サービス・・「現代生活手帳」には便利なものが盛りだくさんなのです。

 

「牢名主」

他人に依存して搾取する者との関係を断ち切れない症候群。彼らを自立させるカウンセラーに頼った女性は、どのようにして依存症から脱却することができたのでしょう。

 

「粗食インスタグラム」

貧しい食生活をSNSで公開し始めた女性は、周囲の人々のささやかな好意によって立ち直れるのかもしれません。

 

「フェリシティの面接」

この作品だけ他者の視点から綴られていました。語り手はおそらく名探偵ポアロ。彼は冷静な観察眼を有する秘書のミス・フェリシティ・レモンにいろいろ助けられていたようです。

 

「メダカと猫と密室」

くだらない仕事のために休日出勤させられ、しかも待機させられていることに気力を失った女性は、同じく待機させられている上司たちとの関係を縮めることができたのでしょうか。

 

「イン・ザ・シティ」

ゲーム内の架空の国の設定を作っていた女子中学生は、偶然知り合った別クラスの同級生にその話をするのです。自分とタイプの異なる同級生は、どう反応するのでしょう。ほのぼのとした作品でした。

 

2022/8