りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

つまらない住宅地のすべての家(津村記久子)

とある町の、路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこにはそれぞれに不幸を抱えた10組の家族が暮らしていました。互いにいたわり合う老夫婦(笠原)。全てに不満で犯罪を企む若い男性(大柳)。老母を看取ってひとりで暮らしている初老の女性(山崎)。母親に逃げられた父子家庭(丸川)。結婚相手のあてもない壮年男性(松山)。手に負えない不登校息子の監禁を考える中年夫婦(三橋)。仕事に疲れた40代の事実婚夫婦(相原・小山)。母親にネグレクトされている小学生の姉妹(矢島)。年老いた母親と暮らす中年男性(真下)。裕福なのに互いにバラバラな大家族(長谷川)。

 

ある日テレビから「隣の県の刑務所から女性が脱走した」とのニュースが流れてきます。職場での横領で服役していた女性は、その住宅地の近くの出身で、どうやら地元に戻っている可能性があるというのです。町内会長の丸川は住宅地を見張ろうと言い出して、角にある笠原家の2階に交替で集まろうと提案。このウザさが妻に逃げられた原因だろうと思いますが、老夫婦は家を使わせることを了承。他の人々も、不承不承ながらこの計画に同意するのですが・・。

 

本書は「住民が一致団結して悪に対抗」する物語ではありません。むしろこの女性逃亡犯の存在が、バラバラだった町内の人々が対話を始めるきっかけを与え、ちょっとずつ思いやりの気持ちを抱かせることになるのです。おかずのおすそわけや、家事の協力や、ゲームキャラの育成や、植木の刈り込みや、夜間の照明開放などの交流が、不穏なことを考えていた者たちの目を覚まし、それぞれの不幸感を軽減していく様子が丁寧に描かれていきます。どうやら「つまらなさ」とは孤立感のことのようです。津村ワールド全開の作品でした。

 

2022/8