りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

恋愛未満(篠田節子)

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いい年をした大人の恋愛は難しい。別に不倫とか特段の事情がなくても、いやない場合こそ難しそうな気がします。失うものの少ない若いころと違って、社会的地位とか、分別とか、他人の視線とか、一途な恋愛にのめりこめない余計なものがついてくるのです。だから恋愛未満。名手の技をご堪能ください。

 

「アリス」

郊外学園都市にある市民バンドの創立以来のメンバーで、トランぺッターである津田という男性を巡る人間模様。大学の研究職にあり、長身で整った顔立ちと物静かな態度から女性人気も高かった津田は、なぜ50を過ぎても独身で浮いた話すらなかったのでしょう。そんな津田が20歳の女学生の団員にアタックしていると聞いて、中年女性たちは誰も傷つかないように収めようとするのですが・・。

 

「説教師」

前作と同じ市民バンドの物語。まだ20代の女性なのに、誰に対しても上から目線で説教してしまう真美は、救急救命士の資格を持つ看護師です。さまざまな修羅場をくぐってきていて、口先だけの生意気女ではないから余計に始末が悪いのです。そんな真美が、ロリコン50男の津田と付き合い始めるとは、誰が予測できたでしょう。2作を通じて、アラヒフの初恵と由佳がいい味を出しています。

 

「マドンナのテーブル」

専業主婦の美佳が、夫の大学時代からの交友関係に不満を募らせているのは、ひとりだけ智子という女性が混じっているから。決してマドンナタイプではなく、どちらかというとがさつな中年女性に嫉妬してしまう美佳は、友人のアドバイスで夫婦同伴の食事会を提案。しかし彼女は、夫の仲間たちの関係が学生時代のように無邪気なものではないことに気付くのです。そして智子が果たしている微妙な役割にも。

 

「六時間四十六分」

アメリカ在住の娘に会いに来た母親は、同行してくれた友人の男女が不倫関係にあることを知って、娘が仕事で不在の日に単独行動をとってしまいます。慣れない海外の駅で、列車が数時間も遅れて不安が募る中、彼女は思わぬ出会いをするのです。サンタバーバラには仕事で何度も行きましたが、いつもレンタカー利用だったので、さすがに鉄道を利用したことはありません。

 

「夜の森の騎士」

相互依存しながら2人だけで暮らしてている、旧家の奥様である母親と出戻り娘の関係に亀裂が走ったのは、母親が認知症に罹ったからでした。そして脳出血を起こした母親は緊急入院。認知症患者の入院は地獄なのです。そして、ずっとパニック状態だった母親が、唯一おとなしく言うことを聞いた相手は、意外な人物でした。陰気な顔つきの中年放射線技師は、娘にとっても白馬の騎士になるのでしょうか。

 

2022/4