りぼんの読書ノート

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センセイの鞄(川上弘美)

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独特の空気感を醸し出す著者の代表作でしょう。37歳独身女性の大町ツキコさんが、ひとり通いの居酒屋で高校時代の恩師だった松本先生と出会い、ゆったりとした交際を始める物語。

居酒屋でぽつりぽつりと交わされる伊良子清白の詩やジャイアンツの話は、秋のキノコ狩り、冬の湯豆腐、春の花見、夏の海辺へと四季をめぐり、やがて「正式なおつきあい」へと進んでいきます。老年男性と中年女性の「つかず、離れず、淡く、長く、紳士的に、淑女的な」関係が、「電池みたいな人生の、最後に訪れたひだまりのような暖かい時間」であることは、互いにわかっているのですが。

本書が世の中高年男性を「舞い上がらせる」ほどの人気を得た理由は、容易に理解できます。では本書の何が女性読者たちに受け入れられたのでしょうか。そこには激しい情熱や未来への希望どころか、生活感や現実感すらないのです。ということは、本書が作り上げているものは、一種の童話的な世界なのかもしれません。本書が出版された2001年頃に「癒し系」という言葉が流行語となったことと関係があるようにも思えます。

2018/2