りぼんの読書ノート

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ドサ健ばくち地獄(阿佐田哲也)

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著者の麻雀放浪記は、麻雀小説というより戦後ピカレスク小説の傑作であり、1984年に真田広之主演で映画化もされています。本書は、真田広が演じた「坊や哲」の先輩的存在であり、映画では鹿賀丈史が演じた「ドサ健」の10年後を描いた作品です。

昭和32年。「もはや戦後ではない」時代に入り、高度経済成長も始まろうとしています。「焼け跡派の一匹狼」であるドサ健の生き方は変わらないものの、彼が狙うターゲットはあちこちに現れてきた小金持ちへと変わろうとしています。まずその仕掛けが面白い。殿下と呼ばれるホステスあがりの女性にアドヴァイスをして、マンションの一部屋に「上客」を対象とする私設の賭場を開かせるのです。

しかし「細く長く」というのはドサ健の流儀ではありません。結局は、有り金全部を吸い上げて放り出す「殺し合い」が始まるのであり、胴元に祀り上げた殿下ですらその例外ではないようです。勝ち逃げ以外に儲ける手段はないものの、勝ち逃げしたヤツも結局は賭場に戻ってきて金を取られる。金がなくなると健康を取られる。そして最後には心を取られるという「ばくち地獄」の世界は強烈です。そして勝ち残ったメンバーで最後の大勝負が始まるのですが・・。

若き日の著者がモデルであろう「坊や哲」が武者修行を続ける剣豪とするなら、根っからの悪党であるドサ健は野盗あがりの戦国武将のようです。なりふりかまわず勝ちに行き、卑劣な手段を用いても生き延びようとする生き方は、やはり一種の美学なのでしょう。

2018/2