りぼんの読書ノート

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風葬(桜木紫乃)

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「桜木ノワールの原点」と帯にありましたが、本書に登場するモチーフはその後の作品にも登場していますね。北方領土を臨む海峡の街での厳しい女の生き方は霧(ウラル)で、書道家という主人公の職業は無垢の領域で用いられています。

主人公のひとりは、釧路で書道教室を営む篠塚夏紀。軽い認知症を患った母・春江がつぶやいた「ルイカ岬」という地名を、新聞に投稿された短歌に見つけて、根室に住む投稿者へと会いに行きます。もうひとりの主人公は、その短歌を詠んだ元教師の沢井徳一。彼は、教師時代に亡くなった教え子と夏紀がそっくりなことに驚いて、過去の事件を調べ始めます。その教え子が住んでいた場所こそ「涙香岬」だったのです。

そしてオホーツクの海に封印されたはずの過去が蘇ってきます。元教師の教え子が死んだ理由は何だったのか。彼女と春江の接点はどこにあり、夏紀の出生の秘密とは何だったのか。そして海峡と国境をまたにかけて戦後を強く生き抜いた老婆の末路はどうなるのか。全てが、海峡にたちこめる霧の中に消えていくようですが、そこから現れて来るものもあるようです。

2018/2