りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

引き潮(スティーヴンスン/オズボーン)

イメージ 1

『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名な文豪スティーブンスンが、義理の息子であるオズボーンの考えたプロットに手を加えて仕上げた作品です。同じコンビの共作である箱ちがいがコメディであるのに対し、こちらは本格海洋冒険小説・・と思いましたが、そうでもないかも。

タヒチの浜辺にたむろする3人の食いつめた男たちに転機が訪れます。天然痘の発生で欠員が出た帆船の乗組員に雇われたのは、大学出ながら無気力さのせいで転落し続けたヘリック、不名誉な海難事故で商船船長を首になったデイヴィス、ロンドン下町育ちの小悪党ヒュイッシュ。3人は船を盗んで南米へ逃げ、積荷を売りさばこうと企むのですが、出航してすぐに仲間割れ。しかもその船の目的は、保険金詐欺のようだった模様。

本書が海洋冒険小説のようだったのは、嵐に遭遇して海図にない島にたどり着くまで。その島を牛耳っていた大悪党と出会って、3人の運命は思いもよらない地点へと流されていくことになるのです。

著者は、人間の道義心の脆弱さや欺瞞性を描きたかったのでしょう。強さと正義も、教養と道徳も、両立しえないものであるかのようです。そして登場人物たちの進む先は見えないまま、本書は突然終わります。「人の営みには塩の満ち引きがある」という運命論的な言葉を残して。

2018/2