りぼんの読書ノート

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政略結婚(高殿円)

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あまり期待しないで読んだのですが、意外と楽しめました。江戸、明治、昭和の3つの時代を生きた3人の女性たちが、それぞれの時代の「結婚観」という呪縛に立ち向かった物語です。いずれも加賀藩ゆかりの女性たちで、小説のモチーフとして九谷焼が使われています。

1人めのヒロインは、加賀藩前田家の3女に生まれた勇姫。生まれた時から支藩大聖寺藩の跡継ぎに嫁ぐことが決められていました。少女時代を過ごした金沢を離れて、しきたりに縛られた江戸屋敷での生活を始めた勇姫は、戸惑いながらも藩になくてはならない人物になっていきます。苦しい藩の内情を救うために九谷焼の復興に貢献したりもしますが、彼女が本領を発揮したのは、夫や養子たちの相次ぐ突然死で、藩が取り潰しに危機に陥った時でした。(てんさいの君)

2人めのヒロインは、やはり加賀藩支藩であった小松藩主の子孫で、明治期に華族の身分を得た家に生まれた万里子です。語学堪能で自由な発想に恵まれたアメリカ生まれの万里子は、ジャパン・クタニの輸出に貢献する一方で、「跡取り娘」である運命にも気付いていきます。貴族出身の許嫁と、好意を抱いた仕事仲間の間で、彼女の気持ちは揺れ動くのですが、自らの意志で運命を切り開くことを選びます。(プリンセス・クタニ)

3人めのヒロインは、昭和恐慌で没落した華族の家に生まれた花音子です。学習院に通いながら、生活のために新宿のレビュー劇場で舞台に立ち、戦中・戦後の困難な時代にスターダムをのしあがっていきます。家名や爵位に何の意味も認めていない花音子の真の闘いは、貧困から抜け出す過程では一心同体であった母親の価値観との間に繰り広げられました。「てんさい図案」の久谷焼大皿が意外な形で登場。華族女優)

たった120年の間で大きく変わった結婚観を示し、それぞれに前時代の呪縛と闘った女性たちの姿を描いた著者は、あえて現代のパートを開けておいたとのこと。その真意は「4人めの主人公はあなたです」ということだそうです。ただし「政略結婚」とのタイトルはピンときませんでした。

2018/2