りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

起きようとしない男(デイヴィッド・ロッジ)

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英国のコミックノヴェルの大御所が、30歳から80歳までに書いた8作を収録した短編集です。著者の作品を読むのは、ハプニング続きのハワイ旅行の顛末をコミカルながらハートウォーミングなタッチで描いた楽園ニュース以来です。記憶に残っていた「旅行は過大評価されている現代の宗教」という言葉は、その作品にあったものでした。

「起きようとしない男」
ある日突然ベッドから起きたくなくなった男は、世間から一種の聖人のように扱われるようになりますが、次第に衰弱していってしまいます。著者が落ち込んでいた時の作品だとのこと。この作品にインスパイアされた家具デザイナーが「理想のベッド」を制作したとのエピソードも楽しいですね。

「けち」
戦後の一時期、花火が品薄になってガイ・フォークス・ディの祝いに支障が出たとのこと。戦前の花火を見つけた少年は、お祭り前に花火を使ってしまった仲間を尻目に、しっかりと溜め込んでいたのですが・・。結末以外は著者の子供時代の実体験だそうです。

「気候が蒸し暑いところ」
地中海のイビサ島に禁欲的な婚前旅行をした2組の若いイギリス人カップルが、開放的なリゾートでフラストレーションの塊となってしまいます。1950年代のイギリスは、まだ「性に寛大な社会」ではなかったようです。

「オテル・デ・ブーブズ」
これも旅先での物語。南仏のトップレス海岸に旅行したイギリス人の中年カップルのとまどいがコミカルに描かれます。上辺を取り繕いながらも、本心を現した原稿がミストラルに飛ばされてしまって、大騒動に・・。

「記憶に残る結婚式」
豪華な結婚式を予定していた新婦が、新郎にドタキャンされてしまい、結婚式までに新しい夫を捜し出そうとドタバタを繰り返します。こんなケースは、普通は悲劇に終わるのですが・・。「エマ」という主人公の名前は、オースティンの作品に登場する意志強固な女性にちなんでつけられたとのこと。

「わたしの死んだ女房」
2015年に発表された最も新しい短編です。美しい妻の写真を自慢げに披露する夫は、彼女が最近亡くなったことを告げるのですが・・。

他に「わたしの初仕事」「田園交響曲が収録されています。

2018/2