りぼんの読書ノート

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あい(高田郁)

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幕末から明治にかけての蘭学医師・関寛斎は、徳島藩藩医として戊辰戦争に従軍し、維新政府から高い評価を受けたにもかかわらず市井に留まり続けたこと。さらには72歳にして北海道陸別町の開拓事業に全財産を投入して広大な牧場を拓き、自作農創設を志したことで知られています。司馬遼太郎は『胡蝶の夢』で寛斎を「高貴な単純さは神に近い」と評したほど。

本書は、寛斎の妻「あい」の視点から寛斎の実像に迫るのみならず、2人の夫婦関係を「永遠の愛」にまで昇華しようとした作品ですが、生憎なことにおもしろくありません。激動の時代に波乱の生涯を送った2人であるにもかかわらず、「人道的な生き方を選び続けた夫と、夫を信じて支え続けた妻」という類型に陥ってしまったようです。

ともあれ、あいの生涯をメモしておきましょう。現在の千葉県東金市の農家に生まれ、佐倉順天堂で佐藤泰然から蘭医学を学んだ従兄弟の寛斎と結婚。銚子での開業時代と徳島藩の典医時代には夫を支え、途中の長崎への遊学時期、戊辰戦争への従軍時には8男4女の母として家庭を守り、最後は夫とともに北海道に渡るも、心臓を病んで陸別の地を見ることなく逝去。常に楽天的なあいが生きていたら、寛斎が後に自作農創設の夢に敗れて自殺することはなかったのかもしれません。

でも、神に例えられるほどの偉人の妻が、夫より人間ができているなんて、絶対におもしろくなりませんよね。もっと破天荒な女性でないと、物語にはならないようです。

2013/8