りぼんの読書ノート

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長門守の陰謀(藤沢周平)

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藤沢周平さんの初期短編集。表題作は庄内藩で実際に起きたお家騒動の顛末記であり、史実研究よりも先んじて調査を行い、小説に仕上げた作品です。用心棒日月抄をはじめ、著者のライフワークのようになった「お家騒動もの」の原点なのでしょう。

「夢ぞ見し」 日ごろ無口な夫・甚兵衛の下城が遅くなっていたのには理由がありました。藩主の跡継ぎをめぐる暗闘に巻き込まれていたのです。事情を知らない妻・昌江のところに滞在した横柄な若侍が、後の藩主になるなんて、想像を絶していますよね。しかも、勝手な想像までしちゃったんだから赤面ものです。でもこの一件で、昌江は夫を見直すことができました。

「春の雪」 みさが、互いに将来を思い合い、誰もが「お似合い」と認めてくれる作次郎と結婚しなかった理由は、幼馴染ながらぐずでへまばかりしている茂太が彼女に寄せる思いを知ってしまったからでした。でも、これって、どちらにも残酷な仕打ちです。たぶん、みさ本人にも。
 
「夕べの光」 力仕事をしながら死んだ亭主と先妻の子を育てているおりんに、縁談が舞い込んできました。おそらくこれが最後のチャンス。でもその男は、彼女と血の繋がらない息子を手放せというんですね。その後出会った男は犯罪者のようで「一緒に逃げて欲しい」と言われますが、やはり息子はNG。前の話でもそう思いましたが、母性本能とは難しいものです。

「遠い少女」 40歳をすぎた真面目な商売人の鶴蔵に、幼い頃の初恋の女性の消息が聞こえてきます。身を落としながらも昔の面影を残す女から「身請けの金を出して欲しい」と頼まれますが、それは犯罪者のヒモを逃がすための資金でした。「目の前にいるのは、鶴蔵の知らない一人の中年女のようだった。その中に、鶴蔵はもう一度遠い昔の少女の面影を探したが見えなかった」というラストの1行がいいですね。

長門守の陰謀」 庄内藩主の弟である酒井長門守忠重が、世子を廃して自分の息子を藩主の座につけようという陰謀に乗ってしまったのは、なんと藩主自身でした。藩を憂いて正論を解く忠臣たちが次々と罰せられるのですから、これではたまりません。すんでのところで藩主は亡くなり息子が跡を継いだため、藩は救われます。藩主となった息子は父の遺言を守って穏便に処分を済ませますが、長門守への恨みは消えなかったようです。果たして長門守は改易された後に・・。

2013/5