りぼんの読書ノート

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経済学の犯罪-稀少性の経済から過剰性の経済へ(佐伯啓思)

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アベノミクス」の有効性はまだわかりませんが、「TPP」参加の前提である「グローバリズム」の正当性について、著者は疑問を投げかけます。たやすく国境を越える資本と情報に対して、労働力はそれほどでもなく、土地に至っては動かしようもありません。現実に起きている「グローバリゼーション」の中で不安定な状態に置かれた国内の労働や生産体制の安定を優先すべきであり、理念としての「グローバリズム」は否定されるべきだと言うのです。

それだけではなく著者は、「グローバリズム」の前提となっている市場主義経済学からして誤っていると言い切ってしまいます。市場主義経済学の理論は「①失業は存在しない。②政府は景気を刺激できない。③景気変動は存在しない。④バブルは存在しない」という非現実的な結論に至ると言うんですね。まあ、学生時代に経済学の講義を受けた際に、薄々と理解はしていましたが。

しかしなぜ「実体経済のデフレ」と「過剰資本のバブル」が当時に起こるのでしょう。著者によると、有効需要がなければ金融市場の中で生れた過剰資金を実体経済へと誘導できず、現代は「過剰性」が蕩尽もされず、成長にも回らず、自分自身を持て余している状態なのだそうです。「確実性に依拠して稀少な資源を効率的に配分する」という市場主義経済学の命題は、もはや当てはまらないのでしょうか。確かに、昨今の金融市場は実体経済から遊離しているように思えますよね。

なかなか説得力ある議論ですが、結論は「グローバル経済のレベルを落とす」、つまり「国内の雇用を確保し、内需を拡大し、資源・エネルギー・食糧の自給率を引き上げ、国際的な投機的金融に翻弄されない金融構造を作ること」とされます。そのためにも「成長」とは異なる「善い社会」の基準を作りなさい・・というのですが、今からこの方向に舵を切り直すのは難しそう。「国防」の問題も複雑に絡んできますし・・。

最近、野口悠紀夫教授の「輸出減少下で原料高騰を引き起こす円安は、もはや経済のプラス要因ではない」との主張を雑誌で読みましたが、これまで前提としていたことが覆されていく時代となっているのかもしれません。

2013/5