りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

潮騒はるか(葉室麟)

f:id:wakiabc:20201122133804j:plain

『風かおる』に登場した福岡黒田藩の4人の男女が、舞台を長崎に移して再登場。前作で養父を失った菜摘は、西洋医学伝習所のポンペのもとで蘭学を学ぶ夫・亮を追って長崎に移り住んで鍼灸医を開業。弟の誠之助も、彼を慕う男勝の千沙とともに長崎で蘭学や医学を学んでいます。

 

因習や怨念を乗り越えて「この世によき香りをもたらす風」になろうと努めている4人ですが、そこに新たな事件が起こります。なんと千紗の姉である佐奈が不義密通の末に夫を毒殺して長崎に向かったというのです。しかも佐奈は身重である模様。さらに佐奈と思しき女性が長崎奉行所に囚われているとの情報も入ってきます。彼女の決死の逃避行の裏にはどのような事情が隠されているのでしょう。そして同じころに福岡藩を脱藩した尊王攘夷の志士・平野国臣が不義の相手という噂は真実なのでしょうか。

 

安政期の長崎らしく、平野国臣をはじめとして、ポンペ、後に幕府の医学所頭取となる松本良順、シーボルトの娘で女医となっているいね、当時は海軍伝習所にいた勝海舟などの実在の人物も数多く登場。前書の「妻敵討ち」に続いて「不義の子」という男女間の問題がテーマとなっていますが、時代性を強く感じさせる作品になっています。著者が存命であったなら、この4人の男女が新しい時代を開く風となる物語を書き続けられていたのではないでしょうか。66歳という若さでの病死が惜しまれます。

 

2020/12