りぼんの読書ノート

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幕末銃姫伝(藤本ひとみ)

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フランス政府観光局親善大使を務め、フランス・ナポレオン史研究学会のはじめての日本人会員である藤本さんの作品ですが、本は珍しく日本の時代小説です。

幕末の会津藩士の娘として生まれた八重は、女性に求められる生き方に苦痛を覚え、佐久間象山勝海舟に師事した兄・覚馬の薫陶を受けて、近代戦に不可欠な銃砲術を学んでいきます。
しかし時代は、覚馬が懸命に訴える兵制改革も進まず、旧態依然としたままの会津藩を置き去りにしてしまうのでした。将軍慶喜は大阪から逃げ帰って謹慎し、江戸は開城。頼りの兄・覚馬は鳥羽・伏見で戦死を伝えられて不在のまま、鶴ヶ城に篭った八重は、ただひとつ残った大砲で、押し寄せる官軍に戦いを挑むことになるのですが・・。

「京の風、会津の花」との副題が示すように、京と会津の物語が交互に進んでいきます。覚馬を中心とする京都の物語が幕末史断章というべき「大きな物語」であるのに対し、八重を中心とする会津の物語は時代の中で懸命に生きる個人の「小さな物語」であって、2つの物語がラストになって交差していきます。

その意味ではよく考えられた構成ともいえなくもないのですが、本書に関して言えば、物語の焦点がぼやけてしまったような気がします。八重の心の揺れや、成長や恋愛に絞ったほうが、小説としての完成度は高くなったのでは?

もっとも幕末の歴史をよく知らない読者層もターゲットにするには、京の物語も必要であったのでしょうし、来年の大河ドラマではなおさら必須の部分でしょう。書き忘れましたが、彼女は後に同志社大学を創設した新島襄の妻として知られることになります。

2012/7