りぼんの読書ノート

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地獄のババぬき(上甲宣之)

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第1回『このミス』大賞で話題になったとの『このケータイはXX(エクスクロス)で』に続く作品だそうです。前作は未読ですが、本書の中で前作の説明があったので違和感なく読めました。(前作を読んだ方には、説明部分はウザイのでしょうが・・)

とはいえ、風変わりでわけのわからない展開にはついていくのがやっと。なんせ主人公の女子大生たちが乗っていた夜行バスがバスジャックされ、犯人の指示によって命を賭けた「ババ抜き」をする羽目に陥ってしまったのですから。

しかも、同時刻にラジオから流れている会談話が徐々にリアルさを帯びてきて、バスジャックとクロスオーバーしてしまうあたりも、めちゃくちゃ現実離れした設定。サスペンス・ホラーとでもいうのでしょうが、読者を否応なく非日常の世界に引き込んでくれるほどではなかったかな。

「ババ抜き」の対戦相手は、不思議な教団のメンバーやら、怪盗やら、マジシャンやら、占い師やら、とうてい普通の女子大生が勝ち抜ける相手ではなさそうなのですが、女子大生側にも心理学者や生存能力の高いファイターなどがいて、好勝負を展開してくれます。一番普通っぽい主人公には、状況分析能力の高いラジオのDJがケータイで指示をしてくれますし。

それにしても、「ババ抜き」の奥の深さには驚嘆いたしました。心理の読みあいや、イカサマの仕掛け方や、相手の動揺や嘘を見抜く鋭い観察など、この簡単なゲームを題材にして、ここまで深く掘り下げてしまうあたりには、阿佐田哲也さんの名作である麻雀放浪記に通じるものすら感じてしまった次第です。とはいえ、殺伐とした戦後の世相と、捨て鉢なギャンブラーたちの生き様を見事に描ききった『麻雀放浪記』と較べてしまっては、あちらに申し訳ありません。

2008/1