りぼんの読書ノート

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薄情(絲山秋子)

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2006年から高崎市に在住している著者が2008年に出版したラジ&ピースは、よそ者だった主人公が地方都市で受け入れられる物語でしたが、2015年に出版された本書の主人公は地元民です。著者の「よそ者度」は低くなっているのでしょう。

家業の神主職を継ぐことになっていて地元で暮らしていながら、まだ独身でアルバイト生活をしている宇田川は、30歳前後くらいでしょうか。他者への深入りを避けて暮らしてきた宇田川が、他者と関わることによって「地元民とよそ者」の違いを意識する過程が描かれていきます。

名古屋に進学・就職・結婚しながら出戻って来た、高校時代の後輩女子・蜂須賀との再会。東京から移住してきた木工芸術家・鹿谷さんを中心とするサロンでの交流。好ましく思った女性とつきあいながら、結局は振られてしまった体験。そして鹿谷さんと蜂須賀の不倫関係を聞いた時の、なんともいえない嫌な気持ち。

それらが相俟って、彼に「地元民とよそ者」を意識させていくのですが、それは微妙な違いでしかありません。たとえていえば、「よそ者」の鹿谷さんが地元を離れた後には忘れられていくのに対し、「地元民」の蜂須賀は再び地元を離れた後でも思い出されるようなもの。

宇田川の将来が「神主職」であろうことは、象徴的です。地元脱出の衝動を覚えても離れられない彼を「土着神」的な存在とするなら、鹿谷さんは「来訪神」にすぎないのでしょう。来訪神が土着化するためには、地元の薄情な視点に耐え続けるか、無関心であり続けるかの長い期間が必要なのです。

2018/2