りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

神秘列車(甘耀明)

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白水社エクスリブリス」で2冊続けて、台湾の若い世代の作品が紹介されましたが、2人の作風は大いに異なっています。歩道橋の魔術師の呉明益(ウー・ミンイー)は台北生まれの都会派であるのに対し、先住民族と共に暮らした客家を先祖に持つ甘耀明(カン・ヤオミン)は、より土俗的のようです。

「神秘列車」
かつて祖父が1度だけ乗ったという幻の列車を探す旅に出た少年は、何を観ることになったのでしょう。国民党による白色テロ政治犯にされ、別離を強いられた祖父と祖母の秘められた物語が、夜の闇から浮かび上がってきます。

「伯公、妾を娶る」
地元の神様「伯公(バッゴン)」の夜遊びをやめさせるため、大陸福建からお妾さんの神像を迎えることにした村の騒動記。土俗的な信仰が生きている田舎の村にも「グローバリズム」は押し寄せ、既存の権威は揺れているんですね。土地の言葉が通じない大陸の女性神には、村の小学校で開いている「外国人花嫁のための客家語クラス」に入学してもらいましょう、そこでは既に「ベトナムインドネシア、タイ、マレーシア、ミャンマーカンボジア、大陸など八か国女性部隊」が勉強中なのですから。

他には、連作短編集の一部を抜粋したコミカルな「葬儀でのお話」と、長編の一部である「鹿を殺す」が収録されていますが、独立した短編ではないのでなんとなく物足りなさが残ります。とりわけ、1970年代の地方都市に出てきた花蓮アミ族の男女を描いた「鹿を殺す」は、じっくりと読んでみたいものです。

2015/11