りぼんの読書ノート

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パールストリートのクレイジー女たち(トレヴェニアン)

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物語は、著者の投影と思しき6歳の少年が、ニューヨーク州オールバニーのスラム街であるパールストリートに引っ越してきた時から始まります。時代は1936年。若い母親ルビーと3歳の妹アン・マリーの3人は、長く不在だった父親から指定された住所にやってきたものの、父親は現れませんでした。

本書は3人がスラムから脱出するまでの8年半の物語であり、少年の視点からスラム街の人々を描写するとともに、少年の成長物語にもなっています。そしてそれは、アメリカが第二次世界大戦に巻き込まれ、勝利するまでの期間とも合致していたのです。

タイトル通り、スラム街の「クレイジーな女たち」は何人も登場しますが、冷静に考えれば「普通の範囲」でしょう。少々頭が弱かったり、植物人間状態の夫を世話し続けて寂しい思いをしていたり、善良な夫の良さを理解できなかったり、噂話が好きだったりしている程度。少年に喜怒哀楽の感情を激しく起こさせるほどには「クレイジー」ということなのでしょう。

しかし、もっともクレイジーだったのは、少年の母親ルビーでした。自分に降りかかってくる不幸や不運と、長く闘い続けたせいでしょうか。フランス人と先住民族の血を引く若く美しい母親は、気高くパワフルな反面、あまりにも頑なに自分自身の狭い世界を正当化してしまうのです。そんな母親に対する思いの変化が、少年の成長過程と一体化していることに気づかされます。

ところで、少年の姓「ラポアント」は、夢果つる街で妻の非業の死に号泣した老警官と同じ名前です。どちらも著者自身の投影だったのでしょう。生涯を覆面作家としてすごした著者の遺作となった「自伝的小説」です。

2015/11