りぼんの読書ノート

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湖(ビアンカ・ベロヴァー)

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チェコの女流作家による、不思議な雰囲気に満ちた作品です。巨大な湖のほとりの村に生まれた少年ナミが、幼いころに家を出た母親を探し求める物語なのですが、本書の舞台になっているのは地理的にも時代的にも特定できない謎めいた世界なのです。

 

次第に水位を下げていく湖に生贄を捧げる風習がある反面、駐留ロシア軍兵士や農場長の暴力にも支配されています。彼が飛び出していった対岸の首都には、近代的な高層建築やグローバル企業のエリートビジネスマンがいる一方で、虐げられて難民化した少数民族のスラムや荒廃した生物学研究所もあるのです。

 

しかし本書の基本的な枠組みは、少年の冒険譚なのでしょう。幼馴染の少女ザザと不幸な別れ方をしたナミは、ついに母親との出会いを果たすのですが、彼女はもはや不運に纏わりつかれた人生に疲れ果てていたのです。母親から得た情報をもとに、ずっと名前も知らなかった父親方の祖父と出会ったナミが行き着いた先には、どのような人生が待っていたのでしょう。

 

本書は、単純な少年の成長物語ではありません。それぞれの場面でナミが抱く感情に同感できないことも多いのです。ジャンル分けなど超越している作品ですが、「ディストピア小説」として理解することも可能なように思えます。

 

2019/8