りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

福袋(朝井まかて)

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著者自身が「読む落語」と称した本書は、江戸時代の庶民を主人公にして、江戸文化と人情を描いた時代小説短編集です。武家の世界を描いた短編集『草々不一』と対をなしています。

 

「ぞっこん」
「ビラ字」とも呼ばれる独特の「寄席文字」を編みだした職人・栄次郎の物語と思いきや、語り手は意外なものでした。天保の改革で寄席が禁じられても、笑いを求めた江戸庶民は逞しいですね。

 

「千両役者」
脇役止まりの役者・花六の前に贔屓客として現れたのは、冴えない唐辛子商人でした。舞台でのアクシデントから腐りきってしまった花六は、どのようにして一世一代の博打にまでたどりついたのでしょう。彼を待つ運命は、千両役者か、それとも咎人か。

 

「晴れ湯」
母親が過労で倒れても働かない父親に代わって、家業の湯屋番を務める少女・お晴は仕事好き。でも母親としては、美味しいお弁当を持たせて塾に通わせてあげたいのです。

 

「獏連あやめ」
全てにそつない兄嫁をうっとおしく思っている古着屋の娘・あやめは、友人を守るために大店のお嬢さんに立ち向かおうとするのですが・・。兄嫁の正体が気持ちいい、スカッとさせられる作品でした。

 

「福袋」
姉が離縁された理由は、とんでもない大グライだから。持参金を返して嫁と離縁したい佐平は、姉を大食い大会に出させて、賞金を得ようともくろむのですが・・。こんな時代から大食いブームがあったのですね。

 

「暮れ花火」
羽織の裏地に錦絵を描くおようが、頼まれても春画を描かないのには理由があったのです。女はいつも命がけとは、深川芸者と共通する心意気ですね。

 

「後の祭り」
くじ引きで神田明神附祭の差配係になってしまった徳兵衛にアイデアを出したのは、普段は役に経たないお祭り男でした。でもそんな男を、最後までアテにしてはいけないようです。

 

「ひってん」
その日暮らしの2人の遊び人が、助けた男からお礼にもらった品で商売を始めますが、2人の人生は大きく変わってしまいます。幸福とは、気楽なその日暮らし生活と、野暮な頑張り生活の間にありそうな気がします。

 

2019/8