りぼんの読書ノート

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パラダイス(トニ・モリスン)

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1993年にノーベル文学賞を受賞した著者が、授賞第1作として書き上げた本書は、衝撃的に始まります。銃で武装した男たちが町外れにある修道院を襲撃して、そこで暮らしている女たちを皆殺しにしようとするのです。

 

やがて物語は時間を遡って、事件へと至る経緯を綴り始めます。南北戦争後に解放されて中西部にたどり着いたものの、白人からも先住黒人からも排斥された貧しい黒人たちが、ルビーという町を作り上げたこと。町に誇りを持ち、固い絆で結ばれていた人々の秩序ある閉鎖的なコミュニティが、長い年月の間に崩壊の危機に瀕し始めたこと。その原因が修道院に暮らす自堕落な女たちにあると、町の指導者たちが思い込んだことなどが明らかになってきます。

 

その一方で、修道院に住む女たちの物語も綴られます。スラム街のゴミの中に棄てられていた女、不注意から幼児を事故死させた女、暴動で両親も恋人も失った女、母親に棄てられて自傷癖に陥った女、母親に恋人を奪われた女、望まぬ妊娠をさせられた女、そんな女性たちが修道女コニーのもとに集まり、男性を締め出して生きる望みを取り戻した場所が「パラダイス」と呼ばれる修道院だったのです。

 

本書のテーマは重層的ですが、一貫して差別の問題が語られているようです。白人による黒人差別は遠景に退いていますが、黒人の間でも肌の色の濃淡、貧富の差、男女の違い、世代の違い、個人の能力の違い、宗教の違いによる差別が蔓延しています。

 

しかし本書はその先に進むのです。修道院襲撃という惨劇を経た後で、ルビーの町では自浄作用が働いて正常化へと向かうことが示唆されていますが、その時ルビーはもう被差別者の楽園ではなく、普通の町へと変わっていくのでしょう。襲撃から逃れた女性たちは、ひょっとしたら別の場所で新たな楽園を築き上げるのかもしれません。

 

2019/7