りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

物語フィリピンの歴史(鈴木静夫)

フィリピンの歴史と聞いて思い出すのは、世界一周中のマゼランが1521年にセブ島で殺害されたこと。そのすぐ後の1543年からスペインによる植民地化が始まっているので、フィリピン史はそのまま植民地としての歴史というイメージなのです。近隣のベトナムでは1世紀に、インドネシアでは遅くとも7世紀に王国が出現しているのに、この差は何なのでしょう。10世紀ころには中国との海上交易が始まり、14世紀には南方のスルー諸島でイスラム伝導が始まっていたようですが、確たる証拠はないとのこと。

 

ともあれスペインによる長い植民地時代は、そのままフィリピン人の苦難と抵抗の歴史です。無数の島々に散在していたこともあり、統一国土も国家意識も持っていなかったフィリピン人は、エンコミエンダという実質的な奴隷制のもとにおかれました。これは総督、教会、功労者に人々の管理権・徴税権を与えて、奴隷的な低賃金で使役することを認める制度であり、管理者側の不正行為は後をたたなかったようです。もちろんフィリピン人の保護に努めた個人も存在したようですが、大半のスペイン公文書はフィリピン人の奴隷化をキリスト教的な理想論で覆い隠すべく全力を注いでいるとのこと。500年に渡るスペイン支配下で、はじめは散発的であった抗議活動は組織だった民族独立革命運動へと成長してきましたが、指導者であったリサールやボニファシオらも最後には処刑されてしまいます。

 

その状況を一変させたのは、米西戦争でのスペイン敗北とアメリカへのフィリピン割譲でした。しかしアメリカもまた、スペイン時代の制度を基盤にした政策を継承しただけだったようです。それでもフィリピンからの移民増加を警戒するアメリカ国内世論に押されて、フィリピン自治領政府を作り上げ、その10年後にあたる1946年に独立を認める法案が成立したのですが、その前に日本軍がやってきたのです。

 

アメリカ軍を駆逐した日本軍は、大東亜共栄圏構想に協力することを条件にフィリピンを独立させます。しかしながら500年の抵抗の歴史を持つフィリピンはしたたかであり、日本への戦争協力は形だけのものであったようです。その一方で中国共産党の影響下にあったフク団を中心に結成された抗日人民軍は、ゲリラ戦に入ります。しかしフィリピンを回復したアメリカ軍は、戦時の同盟者であったフク団を弾圧。親米上流階級のエリート層による政府として独立を認めたアメリカは、アメリカ市場に依存した貿易構造を温存したのでした。

 

その後、ロハスキリノ、マグサイサイらの後に登場したマルコス大統領の長い支配は貧富の格差を温存し、ピープルパワーによるアキノ大統領も大きな変革を打ち出せずに、現在に至っています。フィリピン民族の抵抗と闘争の歴史を高く評価する著者は親米史観に疑問を呈していますが、もちろん問題はそれだけではありませんね。この時代、どの国も舵取りは難しいのですが・・。

 

2022/8