りぼんの読書ノート

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物語スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代(岩根圀和)

物語形式で各国の歴史を概観する中公文庫のシリーズは、読みやすくて重宝しています。先に『物語スペインの歴史 人物篇』を読んだ際に本編が未読であったことに気付いて、急ぎ読んでみました。8世紀のスペイン・ウマイヤ朝成立から、15世紀に完了するレコンキスタ、その後の植民地時代を経て18世紀初頭にスペイン・ハプスブルク朝が終焉を迎えるまでが中心です、

 

「第1章 スペイン・イスラムの誕生」

西ローマ帝国が滅亡する前からイベリア半島を実質支配していたのは西ゴート族でした。しかし8世紀に王位継承を巡って混乱に陥った際に、既に北アフリカまで進出していたイスラム勢力がジブラルタルから上陸してきます。キリスト教国は北部アストゥリアスの山岳地帯に押し込められ、イベリア半島ではイスラム文化が興隆していきます。

 

「第2章 国土回復運動」

繁栄を極めたスパイン・ウマイヤ朝は11世紀初めに内紛で滅亡。30にも分裂したイスラム小王国は、キリスト教勢力のレコンキスタの前に次々と制圧されていきます。最後に残ったグラナダ王国アラゴンカスティーリャの連合勢力に屈したのは1492年。奇しくもコロンブスが大航海に乗り出した年のことでした。しかし宗教的に寛容であったイスラム勢力に代わったキリスト教国家は、異教徒への厳しい弾圧に乗り出します。

 

「第3章 レパント海戦」

アナトリアに誕生したオスマン朝は15世紀に入ると東ローマ帝国を滅亡させ、ヨーロッパへと版図を拡大させていきます。このあたりの経緯については、塩野七生さんの諸著作で馴染みがあります。ヴェネチア贔屓の塩野さんはグダグダしていたスペインを非難していますが、キリスト教国の盟主であったスペインを抜きにして大海戦での勝利など覚束なかったであろうことも事実です。

 

「第4章 捕虜となったセルバンテス

兵士であったセルバンテスは、1571年のレパントの海戦で負傷し、後にアルジェで5年間の虜囚生活を送っています。何度も脱出を試みて失敗した後にようやく身請けされて解放されますが、『ドン・キホーテ』の中に当時の体験を基にしたエピソードも書かれているんですね。

 

「第5章 スペイン無敵艦隊

カトリックの盟主であったスペインの威信は、レパントの海戦をピークとして早くも揺らぎ始めます。1568年に独立戦争を始めたオランダが、1579年には事実上の独立を果たすのです。背後からオランダを支援していたエリザベス女王を戴くイングランドへの侵攻を試みた結果は御存じの通り。1588年のことでした。1640年にはポルトガルも独立を果たし、1700年にはスペイン・ハプスブルク朝の断絶を機に始まったスペイン継承戦争によって決定的に凋落してしまいます。

 

「終章 現代のスペイン」

スペイン・ブルボン朝の成立、ナポレオン軍の侵攻と支配、南米植民地の独立、米西戦争、スペイン内戦、フランコ独裁時代、制限君主制国家の成立、NATO加盟、EU加盟と続く近現代史を綴るには本書の紙面は不足しており、一足飛びに現代の課題に移っています。といっても本書が出版された2002年のことであり、バスク独立運動の過激化とアフリカ難民の増加が懸念されています。2023年の時点で前者は沈静化していますが、後者は大問題化していることは周知の通りです。

 

2023/12