りぼんの読書ノート

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物語イランの歴史(宮田律)

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「イランの歴史」ですから、古代から現代までの長い期間を対象としていますが、本書の重点は現代史です。イランとアメリカが相互不信に陥るまでの関係を解き明かすための新書といっても良いくらいです。 

 

ギリシャ都市国家と覇を競った後にアレクサンドロスに滅ぼされたアケメナス朝(BC550-BC330)ディアドコイたちによるセレウコス朝(BC312-BC63)遊牧民国家であったアルサケス朝(-226、ローマと並ぶ世界帝国であったササーン朝(226-642)、イランをイスラム化しウマイヤ朝(661-750)、イランが中心となったアッバース朝(750-1258)、モンゴルによるイル・ハーン国(1258-1353)、ティムールの支配を脱したサファヴィー朝(1501-1746)、アフガンやオスマンも入り乱れた戦乱時代を制したカージャール朝(1779-1925)の成立までの長い時代は、主題に至るまでの「前史」として1章に集約されています。 

 

そして18世紀になって、強力な帝国主義国家へと変貌を遂げていた西欧勢力と対峙して劣勢に追い込まれていきます。ロシアの南方進出、インド防衛を目的とするイギリスの干渉などによって、権利譲歩、領土割譲、利権蜂起を繰り返した結果、19世紀のイランは半植民地ともいうべき状態まで落ち込んだとのこと。この時代にバハーイー教やパン・イスラム主義などの宗教社会化も進行。その傾向は後のパフラヴィー朝(1925-1979)においても継続されます。 

 

20世紀になって石油が発見されたものの、第二次大戦で親ドイツ政策を採ったイランは、イギリスとソ連に加えて世界的な覇権国家となったアメリカにも利権を貪られます。一時は第三勢力としてのアメリカに期待がかけられたようですが、国有化を進めたモサデック政権がCIAによって倒されたことが、反米イデオロギーの源流となりました。そしてアメリカの傀儡となって国民を弾圧した国王を打倒したイラン革命政権においては、アメリカが主敵となったのです。もちろんイスラエルの存在も大きく影響しています。 

 

本書はジョージ・ブッシュ大統領時代の2002年に書かれたものですが、その後も状況は変わっていません。オバマ大統領の登場によって一時は融和的な状況も生まれましたが、トランプ大統領のもとで両国の関係は一段と悪化しています。日露戦争や、日昇丸による石油輸出などで対日感情は良好だったようですが、アメリカの世界戦略に追随することで両国および両国民の関係が壊れないことを望むのみです。 

 

2020/3