りぼんの読書ノート

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物語オランダの歴史(桜田美津夫)

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もともと都市や州ごとに領地化されていた低地諸州を、16世紀に一体化させたのはハプスブルク家でした。しかしルター、カルヴァンらによる宗教改革運動は既に始まっており、現在のオランダとベルギーでは、いきなり宗教対立も絡んだ長い独立運動が起こってしまうのです。オランダの歴史は事実上、スペインを相手取った80年戦争(1568年~1648年)から始まるといっても良いでしょう 

 

オランダ側の初期の指導者がオランウェ公ウィレム1世ですが、彼は道半ばで暗殺されてしまいます。スペインのフェリペ2世は、アルバ公やパルマ公などの強硬派に鎮圧を命じますが、イギリスやフランスとの三国同盟の効果もあり、1609年の「休戦条約」で事実上の独立を勝ち取ります。もっとも独立の正式承認は1648年の「ウェストファリア条約」であり、それまで散発的に戦闘は継続されています。 

 

特筆すべきは、独立戦争を闘いながら国力を充実させていったこと。すでに共和国となっていたオランダは、産業を発展させて海外進出も成功させています。1600年にリーフデ号が日本漂着した2年後には東インド会社を設立し、インドネシア、台湾、セイロンなどを勢力下に置いてしまうのですから驚きです。文化芸術面でもこの期間に、ハルス、レンブラントフェルメールらの画家、「国際法の父」グロティウスらを輩出し、とりわけ印刷出版業は「17世紀の全ヨーロッパの過半数」を作成するまでに栄えます。 

 

しかし国力を伸ばしたオランダを、近隣諸国は放置してはくれません。18世紀にはイギリスとの海戦やフランスとの陸戦が相次いで国力を低下させ、最終的にはナポレオンによってフランスに併合されてしまいます。オランダが君主国として再び独立を得たのは、1815年のウィーン会議でのことでした。この時はオランダとベルギーは連合王国でしたが、早くもフランス3月革命の影響を受けて1830年にはベルギーが独立してしまいます。 

 

そして2つの世界大戦に巻き込まれた20世紀は苦難の時期でしたが、ウィルヘルミナ(在位1890~1948)、ユリアナ(1948~1980)、ベアトリクス(1980~2013)と3代続いた女王が、戦中戦後の国民の精神的支柱であり続けたようです。 

 

一点特記しておくと、オランダ語は16~17世紀に近代科学の叙述を可能にするために、体系的な造語を行った言語だそうです。それが江戸時代の日本に蘭学として伝わった結果、医学、科学、航海術関係を中心に現在でも多く残っているとのこと。そのことが明治以降の日本の近代化にとって大いに役立ったわけであり、著者も「日本人が本格的に取り組んだ最初の西洋語がオランダ語でよかった!」とまで述べているのです。 

 

2020/7