りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

物語スペインの歴史 人物篇(岩根圀和)

『物語スペインの歴史』の姉妹編です・・と書き始めて、本編が未読であったことに気付きました。そちらも読んでおかないといけませんね。ともあれ本書では、ほとんど戦争に関わる本史では欠落してしまった、「スペインの大地に花開いた中世以来の芳醇な文化の薫り」を伝えるべく、各時代の文化を代表する人物が紹介されています。6人に絞り込むことが至難の作業であったことは、想像に難くありません。

 

「騎士エル・シド

スペイン・ウマイヤ朝が崩壊して30ものイスラム小王国に分裂した11世紀のスペインで、レコンキスタが本格化していきます。その時代に活躍して吟遊詩人の歌や叙事詩に名を遺す騎士「エル・シド」は、実在した人物です。もっともキリスト教のために闘った戦士というより、成功してバレンシア城主となった傭兵隊長というほうが史実に近いようです。

 

「女王フアナ」

スペイン統一を成し遂げたカスティーリャ王女イサベルとアラゴンの王子フェルナンドの次女であったフアナは、神聖ローマ皇帝の長男フェリペのもとに嫁ぎました。しかし兄や姉の一族が相次いで死亡したことで、王国の後継者となったのです。しかし夫への嫉妬と夫の死によって正気を失い、はじめは父によって、次いで息子のカルロス1世によって40年間もの間、幽閉された女王であり続けたのです。

 

「聖職者ラス・カサス」

キリストの名のもとに新大陸を征服しインディオを奴隷化していた16世紀のスペインで、インディオ保護を訴え続けたドミニコ会司教の信念は、どのようにして生まれたのでしょう。彼の活動はエンコミエンダを撤廃させ、ローマ教皇の正式見解を変えるに至るのです。本書では有名な「バリャドリード論戦」へと向かう姿が描かれています。

 

「作家セルバンテス

最初のスペイン文学とされる『ドン・キホーテ』の著者セルバンテスの前半生は、レパントの海戦に参加したやアルジェで虜囚生活を送ったことを除いては謎に包まれています。不遇だった40代から50代にかけての時期を身内の女性5人(姉・妹・姪・妻・娘)と暮らしていたことがわかるのは、近所で騎士が殺害された事件で容疑をかけられたときの調書が残されているからでした。もちろん無実なのですが、この騎士もロールモデルのひとりなのかも。

 

「画家ゴヤ

堀田善衞の大作『ゴヤ』で、彼の生涯は概ね理解しているつもり。本書では、この19世紀宮廷画家について、異端審問所との「闘い」を中心に描いています。

 

「建築家ガウディ」

バルセロナに多くの独創的建築物を遺し、後半生の43年間をサグラダ・ファミリアの建設に捧げたガウディの晩年は、まるで浮浪者のようでした。路面電車に轢かれて病院に運ばれた時に手当てが遅れて亡くなったのは、誰もガウディだと気付かなかったからだそうです。

 

2023/12