りぼんの読書ノート

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ゴヤⅣ 運命・黒い絵(堀田善衞)

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独立戦争に「勝利」したはずのスペインですが、復位したフェルナンド7世の反動政治は文化人の大半を弾圧や迫害の対象としていきます。友人たちも次々に投獄されていく中で、ゴヤも「裸のマハ」が公序良俗を侵害する作品と批判され異端審問所に召喚されます。ゴヤが描いたフェルナンド7世の肖像画が、いかに残忍な表情をたたえているものか。

友人たちの尽力で逮捕を免れたゴヤは、3年ほど前に妻ホセーファを亡くしていましたが、40歳も年下の家政婦レオカディアと再婚。マドリード郊外に別荘を購入します。通称を「聾者の家」というこの別荘のサロンや食堂を飾るために描かれた14枚の壁画が、今日「黒い絵」と通称される作品です。

大迫力の「我が子を喰うサトゥルヌス」が食堂に置かれてあり、唯一穏やかな絵と思える「レオカディア」の視点の先にあるとの構成は、どのような心境から生まれたのでしょう。そして最後の1枚、虚無と絶望の極地ともいえる「砂に埋もれる犬」に至るのです。

1824年、78歳のゴヤはスペインの自由主義者弾圧を避けてフランスに亡命。4年後、亡命先のボルドーにおいて波乱に満ちた82歳の生涯を閉じるに至ります。ボルドーの花売り」などの若々しい絵も残していますが、もっとも印象に残ったのは「俺はまだ学ぶぞ」とタイトルがついたデッサンです。白髪の老人は晩年の自画像ですね。

本著は著者が59歳の時の作品です。評伝や考証や解釈や創作を交えて書かれた本書は、「小説」として新しい地平を切り開き、完成度の高い作品となっています。著者の代表作になりました。

2012/6再読