りぼんの読書ノート

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ゴヤⅢ 巨人の影に(堀田善衞)

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ゴヤが51歳となった1807年に、ナポレオン率いるフランス軍がスペインへ侵攻。翌年にはブルボン王室が追い出されて、ナポレオンの兄ジョゼフがスペイン王位につくとスペインは独立戦争の時代に入ります。全土でゲリラ戦争が勃発するのです。内乱のきっかけとなったマドリッド蜂起と翌日の処刑の情景は、やがてゴヤによってそれぞれ「5月2日」「5月3日」の画題で描かれることになります。

この戦争の悲惨さは、スペインの民衆が犠牲となった戦争の勝利者はイギリスでしかなく、スペインの民衆がえたものは飢餓と破滅と反動政治でしかなかったことにあるのでしょう。ナポレオン没落後も内乱は長く続き、南米植民地の独立を抑えられず、スペインの停滞はその後100年もの間、続くことになるのですから。

第3巻の主題を現わしているのは「巨人」でしょうが、この絵は最近ゴヤの真筆ではなく、弟子の作品であると認められました。著者と本書にとっては残念ですが仕方ありませんね。それでも、版画集「戦争の惨禍」の丁寧な解説だけでも、本書の意義は大きいのです。

「そのために生まれてきたのか」に至る連作は、どの立場にも属すことなく戦争の悲惨さを余すことなく描き出し、世の中を冷徹に観察する画家としてのゴヤの新境地を切り開いたものになっているんですね。

復位したフェルナンド7世が反動政治を復活した1815年、69歳となっているゴヤの苦悩はまだ終わりません。

2012/6