40歳でアカデミー会員に、43歳で新王カルロス4世の宮廷画家となったゴヤは、まるで写真屋を開いたかのように王侯貴族からの注文を次々とこなしていきますが、46歳の時に不治の病に侵されて聴力を失ってしまいます。
しかし彼の代表作とされる作品の大半は、その後に描かれたものなのです。「カルロス四世家族図」は王室の人々の愚鈍さを見事に捉えており、後世の批評家も「富籤にあたったパン屋の一族のようだ」と言っていますし、著者も「かくも美しい衣装をまとい金銀宝石に飾られてなお、かくも愚鈍で低劣な群衆を見たことがない」と感想を述べているほどです。本来描いてはならない所まで映し出しているのですね。
「アルバ公爵夫人像」は、当時ゴヤと噂があった奔放で権勢を持つ女性の肖像画です。彼女の指先がゴヤのサインを指していることに意味があるのでしょうか。髪の長いアルバ公爵夫人の姿は、当時の画帳にも多く描かれます。しかし最後には「彼女は飛んで行ってしまった」ということになるのですが・・。
「着衣のマハ」と「裸のマハ」はそのアルバ侯爵夫人と言われますが、やはり別人がモデルのようです。なんといっても似ていませんし、異端裁判所が睨みを効かす国ではよほどの権力者でなければ「猥褻画」と非難されかねない絵を所有できないのですから。著者の推理は、絵の所有者は宰相ゴドイで、モデルはゴドイの愛人ではないかとのこと。
2012/6