りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012/6 ゴヤ(堀田善衞)

堀田善衞さんの『ゴヤ』は大きな収穫でした。ナポレオン戦争に端を発する内乱の時代を生きた巨匠ゴヤの評伝の主題は、歴史なのか、個人なのか。著者が自ら表面に出て語るのは、小説なのか、評伝なのか、それとも著者の思いなのか。独特のスタイルの作品です。

再読した『潮流の王者』は、やはり素晴らしい作品でした。
1.ゴヤ(堀田善衞)
Ⅰ.スペイン・光と影
Ⅱ.マドリード・砂漠と緑
Ⅲ.巨人の影に
Ⅳ.運命・黒い絵
18世紀半ばにスペイン北東部の寒村に生まれ40代で宮廷画家となったゴヤの作品は、宮殿装飾用絵画の範囲を超えて、本来描いてはならない所まで映し出すような作風です。中でも凄みを増すのは、スペインを征服したナポレオンに対する独立戦争と、それに続く内乱の時代の作品。本書は晩年の「黒い絵」に至るゴヤの生涯と彼が生きた時代背景とを、評伝や考証や解釈や創作を交えて描き出した完成度の高い作品です。著者の代表作ですね。

2.潮流の王者(パット・コンロイ)
自殺をはかった詩人の姉サヴァナを救うために、精神科に家族の歴史を語り始めたトムは、癒やしを求めているのは自分自身であると気づいていきます。姉の心の闇には何が潜んでいるのか。トムが心の奥に押し込めたものは何だったのか。姉が病床で叫んだフレーズが、トムが語る家族の歴史として肉付けされていきます。その過程が物語性に富んでいる、素晴らしい作品です。

3.ルーズヴェルト・ゲーム(池井戸潤)
野球を愛したルーズヴェルト大統領は「一番おもしろい試合は8対7だ」と語ったそうです。業績不振の中で大口取引先から値下げと発注削減通告を受け、銀行からリストラ策の実行を迫られ、ライバル企業から買収工作をかけられた中小メーカーの経営再建物語が、お荷物となっている野球部の意地をかけた闘いの物語と並行して進んでいきます。会社に、野球部に、大逆転の機会は訪れるのでしょうか。「希望の持てない社会」に対する処方箋的な小説です。


2012/6/30