りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

氷平線(桜木紫乃)

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道東の大地を舞台に繰り広げられる6篇の男と女の物語は、閉塞感に満ちた世界でありながら、その一方で力強い生活感に溢れた作品となっています。ラブレスワン・モアの原点がここにあるんですね。

雪虫札幌で破産して十勝平野の実家に戻り、家業の酪農を手伝う36歳の男性は、幼馴染の人妻とだらだらした関係を続けているのですが、老いた父親は後継ぎを求めてフィリピンから嫁を買うようにして息子に与えます。男は変われるのでしょうか。

「霧繭」和裁師として独立した38歳の女性は、かつて得意先の呉服問屋の顧客部長と関係を持ったことがあるのですが、師匠から引き継いだ妹弟子の教育に力を注ぎます。

「夏の稜線」東京から酪農を営む一家に嫁いだ31歳の女性は、長女を産んだものの義母は冷たく夫も味方になってくれません。母親に金をせびって買春にでかける夫に愛想をつかした妻は、娘を連れて家を出る決意をします。

「海に帰る」時代は昭和49年。25歳で独立した理髪店の青年は、偶然店を訪れたキャバレー嬢と関係を持ち、彼女の訪問を待ち焦がれるようになるのですが・・。

「水の棺」歯科医院の院長と関係を持つ35歳の女性歯科医は、院長を振り切ってオホーツクの村に赴任するのですが、院長が倒れたと聞いて心が揺れてしまいます。

「氷平線」大学進学と同時に忌み嫌っていた故郷を離れた青年は、税務署長となって故郷に戻り、かつて童貞を捨てた相手の商売女と再会して彼女に愛を感じるのですが、女は自ら未来を断ち切ってしまいます。

この作家の描く男性は、大半がダメンズですね。北の台地に逞しく生きる女性たちと対照的です。

2012/6