りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

起終点駅(ターミナル)桜木紫乃

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ラブレス直木賞候補となった桜木さんの新作短編集は、北の大地に生きる人々がすれ違うときに生れる「出会いと別れ」ということなのでしょうか。

「かたちないもの」 化粧品会社で幹部として働く真理子に届いた手紙は、かつての上司であり、恋人でもあった男の死を知らせる手紙でした。真理子に何の説明もしないまま、会社を辞めて故郷の函館に去った男の人生とはどのようなものだったのでしょうか。

「海鳥の行方」 職場でのセクハラと暴言に悩む新米新聞記者の里和は、不発弾の取材に行った防波堤で釣りをしている初老の男と知り合います。男が海へ転落死したと聞いて一人暮らしのアパートを訪れた里和は、男には人を殺した過去があることを知らされます。

「起終点駅(ターミナル)」 妻子を捨てて判事を辞めた過去を持つ初老の弁護士の完治が、覚醒剤使用で起訴された若い女性の弁護を依頼されます。孤独な2人は心を通じ合わせるのですが・・。

「スクラップ・ロード」 母子家庭で育ち、北海道大を卒業して銀行に就職した青年でしたが、仕事はうまくいきません。そんな時に町で見かけたのは、失踪した父親がゴミを拾って生計を立てている姿でした。

「たたかいにやぶれて咲けよ」 新聞記者の里和が再登場。湿原を見下ろす特別養護老人ホームで亡くなった歌人の追悼記事を書こうとして取材を始めた里和は、かつて彼女が経営していた喫茶店で世話になっていたという挫折した小説家と出会います。2人の関係とはどのようなものだったのでしょうか。

「潮風の家」 強盗殺人で逮捕されて獄中自殺した弟を持つ千鶴子が、30年ぶりに故郷を訪れます。母が亡くなった後も面倒を見てくれた女性と再会した千鶴子は、はじめて彼女の過去を聞き、故郷を出ることを勧めてくれた訳を理解するのでした。

読者に媚びない姿勢が魅力的ですし、どの作品にも「暗い孤独の中に潜む芯の強さ」を感じます。

2013/3