りぼんの読書ノート

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光まで5分(桜木紫乃)

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「桜木さんの作品なのに沖縄が舞台?」との疑問はすぐに解消されます。主人公のツキヨは、北海道の東の果ての街から流れ流れて沖縄にやってきて、そのまま住み着いてしまった女性だったのです。振り払いたい過去の記憶から逃れるためには、生まれ育った場所から一番遠い島にやってくるしかなかったのでしょう。

 

那覇の裏町の小路にある「竜宮城」という売春宿でその日暮らしをいていたツキヨは、、歯痛がもとで、もぐりの歯科医をしている万次郎なる青年と出会います。彼もまたツキヨと同じようにこの世に存在しないことになっている人物であり、南原なるうさんくさい中年男性にかくまわれて、青い目をしている美しい青年ヒロキと一緒に暮らしています。彼らと意気投合したツキヨは「竜宮城」を出て彼らと同居生活を始めますが、そこもまた生活感も時間感覚もない場所のひとつにすぎませんでした。やがてツキヨは、万次郎が生きるエネルギーをほとんど失っており、ヒロキは死を招き寄せる「天使」であることを知るのです。

 

「光まで5分」というタイトルは、やがて死によって絶たれるはずの人生そのものを意味しているのでしょう。ツキヨもまた「天使」によって死へと旅立つことになるのでしょうか。それとも彼女自身が「天使」の役割を果たすようになるのでしょうか。それとも自分なりの「5分間」の過ごし方を見出すのでしょうか。そして南原の異母妹でヒロキを育てたユタの「おばあ」がツキヨに投げかけた「お前は島の土になる女じゃない」との言葉は、彼女にどう作用するのでしょうか。北の大地で力強く生きる女性像を描くことに定評ある著者は、南の島へと遁走した女性に対して、少々厳しすぎるように思えるのですが・・。

 

2022/5