りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

帰郷(浅田次郎)

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著者が「いまこそ読んでほしい」という反戦小説集です。普通の人が招集されて戦争に駆り出され、運命を狂わされてしまうことの怖さが、胸に迫ってきます。

「歸鄕」
終戦から3ヶ月、身寄りを失って新宿で身体を売っていた女性は、復員したばかりの兵隊から声をかけられます。玉砕した連隊の生き残りという男は、夫の訃報を聞いた妻が弟と再婚していたことを聞かされ、黙って故郷を去ってきたのでした。心中という言葉も浮かんだ女性でしたが、男からの提案は意外なものでした。

「鉄の沈黙」
工廠の技師だった青年兵士が、不運な駒のように動かされてたどり着いた先は、部隊の転進から取り残されたニューギニアで米軍の猛攻を待ち受ける、たった6人の高射砲分隊。彼の任務は88式高射砲の修理にすぎず、既に死を覚悟した分隊員と運命をともにすることなどなかったのですが・・。

「夜の遊園地」
昭和30年代前半。遊園地でアルバイトをしている苦学生は、戦死した父のことを知らずに育ちました。夜の遊園地で子供の手を引きながらも、ジェットコースターやお化け屋敷で悪夢を呼び覚まされてしまう父親たちの姿を見て、顔も知らない父の心情を理解するのです。

「不寝番」
陸上自衛隊の射撃大会に選抜された陸士長は、深夜の不寝番の交替相手の様子がおかしいことに気付きます。その兵士はまるで戦時中の満州にいるかのように振る舞ったのです。富士演習場の廠舎は、旧陸軍内務班の兵舎がそのまま使われていたとのことです。人だけでなく、場所も記憶を持つのでしょうか。

「金鵄のもとに」
ブーゲンビル島で玉砕した部隊の唯一の生き残りであった復員兵は、米兵から物乞いをしている傷痍軍人が、彼が所属していた部隊名を名乗っていることに憤ります。同時に彼は、ブーゲンビル島の「地獄」で人倫にもとる行為をしたことを思い出すのです。

「無言歌」
温泉につかり、ビールを飲んで、両親や恋人に会う楽しい夢を語り合う2人の士官がいる場所は、救出など望むべくもない深度100メートルの海底だったのです。やがて2人の声も・・。

2017/9