りぼんの読書ノート

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籠の鸚鵡(辻原登)

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1980年代の和歌山で、男たちは堕ちていきます。町の出納室長を務める梶は、スナックホステスのカヨ子との不倫現場をビデオに録られて強請られ、公金横領の深みに嵌っていきます。実はカヨ子は、ヤクザ者で情夫の峯尾からの指示で、常連客の梶を罠に陥れたのでした。しかしその峯尾もまた、和歌山に飛び火した暴力団山口組と一和会の抗争の中で、ヒットマンとして使い捨てにされていくのです。

タイへの高跳び資金を得るために、梶に最後の強請を仕掛ける峯尾。自棄になって、峯尾を刺して自殺を覚悟する梶。そこに登場するのがカヨ子の元夫で、峯尾によって強引に離婚させられていた、元不動産業者の神谷。彼は全ての証拠を隠滅した後に、梶が持参する3千万を得て、カヨ子との復縁を目論みます。それを確実にするためにカヨ子に梶と偽装心中をさせ、カヨ子だけ助かるという筋書きを描くのですが・・。

全ての男が、カヨ子を思うままに操ろうとしているんですね。彼女が好きな歌が、高峰三枝子が歌う「南の花嫁さん」というのも皮肉です。彼女はまるで、その歌詞に登場する「籠のオウム」のような存在にほかなりません。しかし、彼女は最後の最後になって、自分の意志で行動するのです。本書は、堕ちていく男たちとは対照的に、カヨ子が「籠から出ていく」物語とも読めるようです。

峯尾が潜伏して天啓を得た高野山や熊野の霊場。梶がカヨ子との心中で行きつく先としてイメージした補陀落渡海。本書には、著者の故郷であり「幽界(かくりくに)隈野」である和歌山の信仰が、重要なモチーフとして登場します。許されざる者冬の旅と併せて「和歌山三部作」という位置づけになるのでしょうか。著者は、冬の旅寂しい丘で狩りをする とで「犯罪三部作」と位置付けているようですが。

2017/9