きっかけは、ウアブが棲んでいた島の泉が開発によって干上がってしまったことでした。専門家たちを交えた「保護クラブ」が、ウアブを隣の島に移した結果、大量死と奇形が発生。それを乗り越えて生き延びたウアブが、全長40cmながら驚異的な再生力、旺盛な繁殖力、凶暴な攻撃性、致命的な神経毒を有する悪魔的な怪物へと変貌を遂げてしまったのです。
本書では、天敵のいない島に移り住んだウワブの固体が、幼生のまま暮らしていたとの解説がなされています。ところが人間によって移された隣の島には天敵がいたので、本来の姿に戻ってしまったというわけです。それだけではなく、脱出をはかったウアブは悪魔的な姿を保ったまま、現代の流木たるプラスチックごみに乗って、はるか遠くのフィリピンや沖縄へと向かうのです。
観光資本を守ろうと事実の隠蔽をはかる役所や、場当たり的な対応を取る外国リゾート資本や、貧困とあきらめの中で外国人を憎むようになる島民たちの様子が、丁寧に描かれていきます。ウアブの移住に手を貸してしまった主人公の青年は、責任を感じて怪物との対決に向かうのですが・・。
SF的な生物学的な生存戦略をおろそかにせず、神話や歴史的な視点を重層的に上乗せし、主人公の複雑な思いまで書き込んだ、本格的な「SFパニック小説」でした。「竜と流木」というタイトルも、いかにも人類学的です。
2016/10