りぼんの読書ノート

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トルコ捨駒スパイ事件(ボリス・アクーニン)

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日本語の「悪人」からペンネームをつけたというロシア人作家による、「ファンドーリンの捜査ファイル・シリーズ」の第2作です。今まで4作品が翻訳されていますが、本書を読み落としていました。1作ごとにジャンルを変えて趣向を凝らしているシリーズというと、最近ではミレニアム・シリーズが思い浮かびますが、こちらのほうがずっと前ですね。

本書ではなんと、トルストイ戦争と平和に挑みました。ロシアの男の子たちは「ナポレオン戦争部分」を、女の子たちは「恋愛物語の平和部分」を好んで読むという性差を解消するために、「女の子を戦争に行かせてしまおう」と発想したといいますから、なかなか挑戦的。

舞台は1877年の露土戦争。進歩的な美少女ワーニャは、前線で戦う恋人の後を追い、男装してバルカン半島へと向かいます。ところがいきなり女性であることを見破られ、窮地に陥ったワーニャを間一髪で救ったのがモスクワ警察特捜部のファンドーリン。前作堕ちた天使アザゼルで事件は解決したものの悲劇的な体験をしたために、22歳にして総白髪になってしまった純情な天才青年刑事は、正体不明のトルコスパイの暗躍を阻むために、バルカン半島へとやってきていたのです。

ワーニャは、青年将校戦場ジャーナリストなどの素敵な男性たちからモテまくる一方で、戦場の悲惨な現実を目の当たりにすることになります。それだけではなく、戦争の行方を左右しかねない軍事機密の漏洩や、犯人と目された人物の変死にも巻き込まれていくのです。その裏では、ファンドーリンが凄まじい情報戦争を闘っていたのですが、果たして結末は?

スパイの正体は意外な人物でしたが、実は高邁な理想に基づくスパイ行為であったという点が、出色でした。後年の「トルコ建国の父」アタチュルクの登場を予感させるような人物なのです。やはり、高水準の作品です。翻訳が4作にとどまっていることが、惜しまれます。

2016/10