りぼんの読書ノート

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マルクス最後の旅(ハンス・ユルゲン・クリスマンスキ)

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資本論』などの著書によって科学的社会主義思想を確立したカール・マルクスは、1883年に亡くなる前年に、病気療養のためアルジェに滞在したそうです。往復の経路には、パリ,マルセイユ、カンヌ,モンテカルロなどが含まれているのですが、行く先々から膨大な書簡を送っていたとのこと。

カンヌやモンテカルロでカジノを訪れたマルクスは、「カジノ資本主義」や「株式投機」という研究課題を見出していたようです。富の増殖過程には、『資本論』で分析された「貨幣→財→貨幣‘」のみではなく、「貨幣→貨幣‘」というルートもあることに気付いたというのです。現代の高度に発展した金融資本主義社会に生きる私たちにとっては当然のことですが、株式市場の黎明期においては画期的な発見だったのでしょう。

しかし盟友エンゲルスは、マルクスの死後、その書簡類を世に出すことはありませんでした。『資本論』の「第2巻」、「第3巻」を纏め上げて出版するだけでも想像を絶する作業だった訳ですが、それだけが理由ではなかったようです。証券取引を解析する数式だけならまだしも、金儲けを目論んだ投資の指示まであるというのは、資本主義の弔鐘を歌い上げたマルクスのイメージを壊しかねなかったからなのでしょう。もちろんフィクションですが。

さらには、あまり知られていない私生児問題を取り上げた点は、マルクス人間性に迫る試みだったのでしょう。ついでながら、アルジェで長い髪を切り、髭を剃り落したというマルクスの写真が残っていないのは残念でした。

2016/10