りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サムのこと 猿に会う(西加奈子)

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著者の初期の3篇が編まれた短編集ですが、女性アイドルグループメンバーによるドラマ化に合わせて202年3月に出版されました。3作とも「何かが動いた瞬間」を力強く切り取った作品ですが、ドラマではアイドル主演ということで、かなりの変更が加えられているようです。

 

「サムのこと」

そぼ降る雨のなか、突然の死を迎えた仲間サムの通夜に向かう20代の5人の男女。まだ定職にもついておらず、毎日を流されているように生きている5人の会話から、不在であるサムの姿が浮かび上がってきます。それは常識人であるがゆえに、仲間の輪に入り切れない孤独な青年の姿です。しかしサムの死は、残された5人が「これからの長い日常」を意識するきっかけになったのかもしれません。

 

「猿に会う」

20代半ばになっても恋人もできない幼馴染の3人の女性たちが占いに行ったのは、やはり何かを変えたかったのでしょう。しかしその占い師は顔の特徴から性格を判断するだけの、いい加減なものでした。「細い目、出っ歯、大きな耳」から「疑い深い、おしゃべり、地獄耳」なんて言われても困りますよね。東照宮に旅行した3人が「三猿」と出会ったのは、とても偶然とは思えないのですが・・。

 

「泣く女」

小説家志望の友人と一緒に、津軽まで太宰治の生家を訪ねる旅に出た野球部の高校生。彼らが竜飛岬で出会ったのは、雨の中で岬に佇み、さっきまで涙を流していたような女性でした。なんてことのない体験ですが、女性の笑顔を見て青空の竜飛岬を想像できるようになったことは、彼らの成長を意味しているのでしょう。

 

2022/5