20世紀後半に活躍した作家ヴィネガットの未発表短編集の第2弾。「モラリストの力」と表題を付けたデイヴ・エガース氏の後書きに、「ものごとを明らかにしてきちんとメッセージを伝える短篇」であると述べていますが、そういう作品は決して古びないものであると感じさせてくれます。
「ジェニー」
かつての天才研究者は、冷蔵庫型のAIを理想の恋人に仕立てて販売拠点を回り歩く辣腕営業員となっていました。彼は現実の女性と向き合うことを怖れていたのですが、かつての妻が危篤であると知らされて・・。
「エピゾアティック」
家族に責任を持つ中年男性を狙い撃ちにするウィルスが流行したら、生命保険会社はたまったものではありませんね。主人公の保険会社社長もまた・・。
「百ドルのキス」
男性誌のピンアップガールは、ミステリアスな存在であってこそ魅力ある存在なのです。「会いに行けるアイドル」などとは次元が違うのです。
「人身後見人」
「遺産増続、成人、結婚、禁酒」のお題をもらって短篇を書くと、こんな物語になりそうです。若者が、後見人の思った通りの行動など取るはずかありませんよね。
「スロットル全開」
鉄道模型オタクの男性が模型ゲージに嵌って妻をかまわないことを、母親から叱られます。いくつになってもオタク息子は子供なのですね。
「ガール・プール」
瀕死の殺人犯からメッセージを受けた女性事務員が、見知らぬ男性の危機を救おうとする心理は、少々理解に苦しみます。読者の予想は大きく覆されますが、結果オーライなのでヨシとしましょう。
「人みな眠りて」
クリスマスには、派手な飾り付けに心奪われるのではなく、心静かに聖母子像に祈りを捧げるべきですね。毎年派手になっていくばかりだったクリスマス・イルミネーションが、少し落ち着いてきたように思えるのは、気のせいでしょうか。
純なキリスト教的精神なのかもしれませんね。
「消えろ、束の間のろうそく」
文芸雑誌のペンパル募集欄は、現代の異性紹介サイトのようなものだったのでしょう。写真NGの相手などどんな者かわからないのは、今も昔も同じです。もっとも現代では写真すら信じられるものではありません。
「ボーマー」
お気楽な同僚の無責任発言を真実にすべく右往左往するなんて、なんて心優しい人たちなのでしょう。でもそれがヒートアップしてくると、洒落ではすまなくなってくるのです。
「腎臓のない男」
第二の人生のためにフロリダに転居した60代の老人が、80代の地元の老人と出会ってたいへんな目にあってしまいます。相手の思い違いに気づかずに、信用してしまってはいけません。
「年に一万ドル、楽々と」
音楽家を目指している男が、仕方なくドーナツ店の仕事を始めたのは、もちろんちょっとした回り道にすぎません。たとえそれが凄い利益をあげる仕事だったとしても。オチの秀逸。
「金がものを言う」
商売に行き詰った男が巨万の富を相続した女性と恋に落ちてしまいます、恋する2人には金など問題ではないのですが、いつの間にか「金」が第三の登場人物として実際に喋りだしてしまいます。
「ペテン師たち」
作風の異なる2人の画家は、互いに相手を蔑みながら羨んでもいるのです。妻たちの策略で作風を交換して描いてみることにするのですが・・。2人とも自分が持って生まれた才能に気づくのですから、これはハッピーエンドですね。
他に 「ルース」、「タンゴ」、「ミスターZ」の3編が収録されています。
2020/3