本書は著者が1970年代から1990年代前半にノートに綴った掌編、短編を25編集めた作品集であり、『悪童日記』以前の習作にすぎないものも多く収められています。ですから、本書に作品の完成度を求めてはいけないのでしょう。著者独特の「諧謔にくるんだ絶望」とでもいう雰囲気と、彼女が「敵」というフランス語から選び取った言葉を味わうためのものと割り切った方が良さそうです。
廃駅にて来ることのない列車を待ち続ける老人、夫を殺害したことを事故と言い張る妻、まだ見ぬ家族が裕福であったことに落胆する孤児、間違い電話から生まれた出会いのチャンスを逃してしまった男、社畜であったために仕事も家族も失ったビジネスマン、息子が連れて来た恋人に落胆する母親、単純労働を繰り返して死んでいった労働者、やはり夫は頼りないことを実感する新妻、大人の嘘に気付いている子供・・どの作品にも著者の感覚が漂っています。
しかし一番著者らしいのは、「どちらでもいい」という投げやりな言葉をタイトルとしたことのように思えました。『悪童日記』を読んで著者の作風を好ましく思い、著者の作風に浸りたいという読者向けの作品集でしょう。
2018/10