りぼんの読書ノート

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猿の見る夢(桐野夏生)

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著者が「これまでで一番愛おしい男を描いた」という主人公は、59歳の薄井正明。銀行からの出向先で取締役まで上り詰め、10年来の愛人との関係を保ち続けるために、65歳まで働ける常務のポジションを狙っているという、欲望にまみれた初老の男性です。

しかし会社で起こった社長のセクハラ問題と、妻が相談した謎の占い師の忠告が、彼の人生を狂わせていくのです。オーナー企業の高齢の会長につくか、会長の娘婿でありながら不仲の社長につくか。亡くなった母の遺産を巡って、妹夫婦と徹底抗戦するべきなのか。愛人がいながらも、会長秘書のことも気になっているようです。

なんと煩悩にまみれた、枯れていない男なのでしょう。著者は、「男性とは何かを捨てて何かを得るのではなく、全てを持ちたい、つまり無くすことが耐えられない人たち」と定義していますが、これを「愛おしい」と言える境地に至るのは難しそうです。妻が呼んだ占い師の長峰は、「三猿」は本当は「四猿」であり、股間を抑えた「せ猿」の格言を示して、薄井に対しても忠告するのですが・・。

彼は欲望を満たせるのか。それとも全てを失ってしまうのか。まあ、著者の作風からして、結末は想像通りなのですが、あきれるくらい「わかっていない男」の身に降りかかる悲喜劇を存分に楽しめる作品です。

2017/11