タイトル通りに「逃亡」をテーマとする4作の短篇を治めた小説集です。逃亡した先には破滅しか待っていないことがわかっていても、人はなぜ逃亡するのでしょう。
「逃げろ九州男児」
職を失い、年老いた母を抱えて途方に暮れる男は、生活保護を申請。市役所の女性職員も「あなたは生活保護を受ける資格がある」と丁寧な対応をしてくれました。しかし男はふとしたことで暴走を開始するのです。「今、世界が終わったとしても後悔しない」という疼きとは、どのように生まれるものなのでしょう。
「逃げろ純愛」
時代錯誤的な文通に記された純愛の当事者は、やがて中学教師の女性と元教え子の未成年男性であることがわかってきます。もちろんこれは犯罪です。幼いながら一途な少年の愛情が、女性教師を破滅に追い込んでいくのです。
「逃げろお嬢さん」
一世を風靡しながら転落した元アイドルが、鄙びた山奥の温泉宿に逃げ込んできます。ずっとそのアイドルのファンだったという温泉宿の主人の青年は、TVのドッキリだと思い込んで彼女を匿うのですが、警官が絡んできた時点でわかるべきですよね。しかし彼の無謀な献身は、冷たくなっていた元アイドルの心を溶かしたのかもしれません。
「逃げろミスター・ポストマン」
郵便配達の仕事が下請けや孫請けに回されることがあるとは知りませんでした。天下の郵便局のロゴをつけている以上、品行方な運転は必須条件。しかし煽り運転をしてきた男にキレてしまったのは、思い通りになっていない人生に対してなのでしょう。流氷を伝ってサハリンまでなど行けるわけもないのですが。
2020/10