りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

SGU警視庁特別銃装班(冲方丁)

著者が描き出す近未来の東京は、まるで「マルドゥック・シティ」や「シュピーゲル・シリーズ」のミリオポリスのよう。どうやら銃の蔓延のみならず、法執行者の権限を著しく制限したまま犯罪者の人権を過度に擁護するどころか、世直しの英雄と持ち上げる風潮が銃犯罪を急増させてしまったようです。「正しい殺人などありうるのか?」という修辞的な問いには、ある種の危うさが潜んでいるのでしょう。

 

銃社会の危機に立ち向かうべく警視庁内に設立されたのが、少数精鋭の特別銃装班SGU(Special Gun-bearing Unit)。使命感を抱く警視庁幹部が登用したのは、警視庁内のスペシャリストたちに加えて、、かつての英雄的な行為が世論の反発に合って除隊を余儀なくされていた元自衛官や、民間から登用され天才プログラマー。異能力者こそいませんが、「チーム09」や「MPB」を思わせるチーム編成ですね。シビリアンコントロールに徹している点も共通であり、著者の信念が伺えます。

 

彼らが闘うべき「敵」は次第に絞られていきます。国内への弾薬供給ルートを握ることで裏世界を支配するようになった元警察エリートの磐生。権力への憎しみを暴走させた人気者の人権派弁護士。そして何度も人質に取られている女子大生や電化製品技術者は、どのような役割を担っているのでしょう。やがて両者は府中の日銀電算センターで最終決戦の時を迎えるのですが・・。

 

狼の群れから羊を守る役割を担う訓練されたシェパードを、牧場から放逐してはいけないようです。無数の羊たちが自ら防御手段を手にする世界で、狂った羊の暴走を止めることができないことは、アメリカの銃社会が証明しているのですから。しかし、家の近所がカーチェイスや決戦の舞台になるとは!

 

2023/12