りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ミシンの見る夢(ビアンカ・ピッツォルノ)

19世紀末のイタリア。コレラの流行で大家族を失い、祖母に育てられた貧しい少女が「お針子」として身を立てていきます。既製服の流行によって消滅するまで、日雇いの「お針子」はごく普通の存在であり、著者は刺繡を教えてくれた祖母を思い出しながら本書を書いたとのこと。

 

主人公が縫い物の仕事で訪れる家の人々とのエピソードが、次々と語られていきます。裁縫を教えてくれた祖母。友人となって読書や音楽の楽しみを教えてくれた富豪令嬢のエステル。パリからドレスを取り寄せると評判だったプロヴェーラ家の実態。アメリカ人ジャーナリストのミス・ブリスコー。互いに助け合うズィータと娘のアッスンティーナ。そして誇り高いデルソルボ家の女主人ドンナ・リチニア。そしてどこでも面倒を起こす男たち。

 

これらの人々との交流から浮かび上がってくるのは、当時のイタリアが絶対的な階級社会であり、絶対的な男性優位の社会であったこと。しかしその一方でエステルやブリスコーのような新しい女性も登場し始めていたのです。分をわきまえることを亡き祖母からしつけられていた主人公が、差別社会に押しつぶされずに済んだのは、開かれた考えを持つ女性たちを知り、読書によって自分の世界を広げることができたから。そして何よりも手に職を持っていたから。

 

思いも寄らぬ展開が主人公を待ち受けていますが、それはハッピーエンドとなるのかどうか。いきなり50年後の物語となるエピローグは、見事に想像の斜め上を行ってくれました。1942年生まれの著者は本書の執筆に際して、祖母の昔話や当時の新聞記事などを参考にしたとのこと。実際に起こった出来事をベースにして細部を想像力で補う作業は、当時のドレスメーキングの過程のようです。

 

2023/12