りぼんの読書ノート

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怒りの葡萄(ジョン・スタインベック)

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1939年に出版された本書は、大恐慌と自然災害によって流浪の民となったオクラホマ農民の苦難を描いて大ベストセラーとなる一方で、当時のアメリカ社会を告発する内容であったため、保守層からの非難も招いた作品です。しかし本書が不朽の名作であることは、ピューリッツアー賞受賞、著者のノーベル賞受賞、映画の大ヒットで証明されています。

穀物価格の暴落、大規模資本の農業進出に加えて、干ばつと砂嵐によってとどめを刺されたアメリカ中西部の農民たちは、銀行に土地を奪われて、「約束の地」カリフォルニアを目指しました。本書で描かれたジョード一家も、長男のトムをはじめとする13人の大家族でオクラホマを離れます。しかし中古トラックで、ロッキー山脈やコロラド川アリゾナの砂漠を越える西部への旅は、苦難の連続でした。まず初日の祖父が倒れ、疲れ果てた従弟が脱落し、カリフォルニアを前にして祖母も亡くなります。

しかも、ようやく到着したカリフォルニアも楽園ではありませんでした。美しい果樹園風景とは裏腹に、流浪農民で溢れた農園で不当に安い賃金で過酷な労働を強いられただけでなく、移民に対する迫害も起きていたのです。妹の夫は妊娠中の妻を置き去りにして逃亡し、労働者を組織化しようとした説教師は地主に雇われた警備員に撲殺されてしまいます。怒りのあまり警備員を殺害してしまったトムは、ようやくたどりついた国営農場に家族を残して、ひとりで去って行くのでした。

キリストの弟子と同じ13人という人数、「出エジプト記」を思わせる苦難の旅、説教師の惨殺、賛歌の歌詞からとられたタイトルなど、聖書との関連が随所に散りばめられた作品です。それだけに、資本主義の矛盾や、極端な貧富の差、移民への迫害などが、正義に反する行為として際立ち、それに抵抗する主人公たちへの共感を呼ぶのです。物語の途中に作者の視点による社会描写や解説などが挿入される、19世紀の大作のような構成であり、文庫上下巻で900ページ近い作品ですが、一気に読めます。

2018/9